◆ダイエットには低炭水化物法が効果有り?? NEJM論文

nejm.jpgプリントアウトしたままになっていた、NEJM(The New England Journal of Medicine)の論文ようやく読みました。Yahooニュースのトピックスにもなっていたので見た方も多いのでは?
数ある学術誌の中でも、臨床研究においてNEJMは非常に評価の高い雑誌なので、注目度も高かったみたいですね。

結論を先に言うと、報道の「ダイエットには低炭水化物法」みたいなタイトルはまぎらわしいですね。このニュースを見た方が「ダイエットするなら低炭水化物法にしよう♪」と思ってしまったら困る。原題は “Weight Loss with a Low-Carbohydrate, Mediterranean, or Low-Fat Diet (低炭水化物食,地中海食,低脂肪食による減量)” ですから報道タイトルが行き過ぎですね。論文の結論も、低炭水化物食と地中海食は、低脂肪食の代替となり得、個人の嗜好に合った方法で減量介入できる可能性があるとしているだけです。
アブストラクト(和訳)はこちら。原文はこちら

以下簡単に。

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この研究はイスラエルで、2年間、322人の被験者-平均年齢52歳(年齢のレンジは40-65歳)、平均BMI31(平均体重は約91kg)、男性が全体の86%(つまり主に中年太りの男性)?対象に行われたものです。
彼らを、低脂肪食実行群・地中海食実行群・低炭水化物食実行群に分けて2年間追跡調査。その2年間の体重変化、血糖値やコレステロール値などの検査値を測定しています。

気になる食事法の中身は、

低脂肪食 
アメリカ心臓協会のガイドラインをベースとしたもので(野菜や果物、未精製穀物を多くとり週二回は魚を食べよう、などがAHAの推奨です)、摂取エネルギー量は、女性1500kcal/日 男性1800kcal/日。脂肪の摂取は、摂取エネルギーの30%以内、飽和脂肪からのエネルギー摂取は10%以内、コレステロールの摂取は300mg/日に抑えるという方法。被験者は低脂肪の穀物、野菜%以内、果物、豆類を食べ、余計な脂肪の摂取やお菓子、高脂肪のスナックなどを控えるようにと指導を受けています。
(ちなみに平成17年国民健康栄養調査の結果を見ると、日本人の過半数の脂肪の摂取は摂取エネルギーの30%以下ですから、日本人にとっては低脂肪食という感じではありませんね)

地中海食
摂取エネルギー量は、女性1500kcal/日 男性1800kcal/日。脂肪からのエネルギー摂取は35%以下に抑える(その内容はオリーブオイル30-45gと、少量のナッツ-20g以下-)。原題 “Eat, Drink, And Be Healthy”をベースに、野菜をたっぷり、牛肉やラムなどは控えて、鶏肉や魚を食べるという方法。

低炭水化物食
これはアトキンスダイエットをベースにしていて、摂取エネルギー量に制限無し。
導入期の2ヶ月は、炭水化物の摂取を1日あたり20gに制限。導入期を過ぎてからは徐々に炭水化物の摂取量を増やし、最大120gとしています。摂取カロリー他、たんぱく質、脂肪に関しても制限は無し。
しかしながら、被験者はたんぱく質や脂肪を植物性食品から取り、トランス脂肪の摂取は避けるように指導を受けています。

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上記の食事の中身を見ると、低炭水化物食が最も低カロリー摂取になりそうですよね。糖質を控えた上に、タンパク質、脂質を植物由来の食品から摂るわけですから。一般的に考えられている、肉魚は食べ放題というイメージの低炭水化物ダイエットとは違いかなり制限が厳しい印象を受けます。実際最初の6ヶ月間、それまで摂っていた食事より摂取カロリーが最もダウンしているのは低炭水化物食で、最も摂取エネルギーの減少が少ないのは地中海食。最終的な体重減少は、
低脂肪食3.3kg、地中海食4,6kg、低炭水化物食5.5kg。
こちらのグラフに体重変化が載っています。

最初の半年間で3つのダイエットはどれもがっくり体重が減って、低脂肪食と低炭水化物食はややリバウンドをしてそののち横這い。
実験の中での低炭水化物食実行群が一番急激に体重が落ちていますが、リバウンド幅も最も大きい。そして、2年間このダイエットを遂行できた人の割合は、低脂肪食90.4%、地中海食85.3%、低炭水化物食78%。低脂肪食の脱落者が最も少なく、低炭水化物食の脱落者が最も多かったようです。

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検査値

  • 総コレステロール/HDL比の減少でもっとも改善を見せているのは、低炭水化物食で20%、低脂肪食は12%。
  • 血中アディポネクチンの増加が一番多いのは低炭水化物食。血中アディポネクチン濃度と内臓脂肪量は逆相関すると考えられているので、内臓脂肪が一番減ったのは低炭水化物食なのでしょう(一番体重落ちていますしね)。
  • 被験者数が少ないのですが、糖尿病の空腹時血糖に減少が見られたのは地中海食。
  • CRP(炎症マーカーで肥満と相関すると考えられています)の減少は、低炭水化物食>地中海食>低脂肪食(体重減少の順番と同じ)

検査値見ると、低炭水化物食が一番良い気になりますが、一番体重減少しているから、単に体重減少に相関しているだけな気も。個人的には低炭水化物法はリバンウンド幅が大きい点と、脱落者が多かった点が気になります。
食事法としても低炭水化物食が一番縛りがあるし…。もっともカロリー減だったのも低炭水化物食だから、一番体重減で当たり前ですよね。
体重減少が起こった最初の半年で、それまでの食事からのカロリーダウン幅が大きかったのは、低炭水化物食>低脂肪食>地中海食であることを考えると、実はこの3つでは地中海食が良い気も。

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ただ、これまで安全性に疑問を持たれていた低炭水化物食ダイエット、2年続けても大丈夫そうだというデータがこれで出たので、アメリカ心臓協会推奨の低脂肪食法以外にもダイエット法の選択肢が増えた、という点が大きいのでしょうね。

それにしても、すべてのダイエットで体重減少が6ヶ月で、行き止まりでその後横這いとは…。本当に1800kcal/日で続けたんでしょうか? もとのエネルギー摂取量からの減少カロリーしか論文には載ってないので謎なんですよね。本当に2年食事法を遵守していてこれしか痩せなかったとしたらショック!(中には10kg以上痩せた人もいるようですが)

*参照文献:Weight Loss with a Low-Carbohydrate, Mediterranean, or Low-Fat Diet N Engl J Med 359:229, July 17, 2008