がんになる原因として、食生活の関与が大きいと考えている方がとても多いように思うのですが、おそらくそれはハーバード大学が1996年に発表したがんの原因割合の分析結果が現在でも影響しているのではないかと思っています。
この研究結果が発表された当時、ちょうど栄養疫学を学んでいる学生だったので、食事の影響が大きいことに衝撃を受けたことを覚えています。
ただ、当時から日本人の場合は、アメリカ人に比べて肥満が少ないことや、野菜や食物繊維の摂取量が多いことなどから、アメリカより食事の影響は少ないだろうと考察されていました。
そして、時を経て厚生労働省の研究班によって日本人におけるがんの原因、発生要因を分析した結果が2012年に発表されました。
予測可能な要因のうちに占めるそれぞれの影響割合を示したものです(重複要因は調整されています)。
ちなみにその他の要因は、大気汚染や放射線、化学物質への暴露、遺伝子要因など未知の要因です。
どうでしょう、思いの外食事の影響は少ないと感じる方が多いのではないかと思います。
食事の影響は、塩分のとりすぎ、野菜果物の不足が関与しており、あとは肥満が発がんの原因になっているという結果です。(詳細は国立がん研究センターのHP内にあります)
がんになると、それまでの生活習慣を反省して、「食事が悪かった!」と落ち込んで、食事のことを気にされる方が多いのですが、この研究結果を見る限りは実際はそれほど食事の関与は強くない可能性があります。
食事より、たばことウィルスや細菌感染(ヒトパピローマウィルス、肝炎ウィルスやピロリ菌)の方がずっと日本人のがんの原因になっていることが見てとれます。
書店には特定の食品ががんの原因になる(最近では小麦製品や牛乳などが攻撃対象になることが多いです)、といった恐怖心を煽る書籍なども多くあるのですが、そうした書籍はほとんどの場合、作者の経験や印象から憶測を綴ったものです。
経験豊富な医療関係者が臨床経験から得た印象でも、単なる疑似相関である可能性は高く、大量のデータを集積し、解析した研究結果には及びません。
食事は身近なものなので、ついそこに原因を求めたり、治癒の可能性を見出したくなってしまうのだと思いますが、がんになる原因の関与度も日本人の場合はおそらく低く、まして食事でがんを治すなどというのはファンタジーなのだという理解がすすみ、誤った食事療法にはまって余命を縮める方が少なくなるよう願っています。